拝啓 社長殿 2013年7月号「消費税還元セール禁止法の狙い」

拝啓 社長殿 2013年7月号「消費税還元セール禁止法の狙い」

拝啓 社長殿 2013年7月号「消費税還元セール禁止法の狙い」

拝啓 社長殿
日税国際税務フォーラム

今回のテーマ: 消費税還元セール禁止法の狙い

2013年6月5日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」
(以下、特措法。)が成立しました。

この法律、メディアが「消費税還元セール禁止法」と称して報道したことから、
還元セール禁止の是非のみがクローズアップされていますが、
法制度の本質は「下請いじめの防止」にあります。

1 消費税還元セールは禁止されるのか

2013年4月12日、特措法案が国会に提出されると、イオンの岡田社長やファーストリテイリングの柳井会長をはじめ、
消費増税を前に売上減少を懸念する小売業界から反発の声が上がりました。

法案を巡る国会審議において、当初、消費者庁は、
「消費税という表記がなくとも消費税と関連付けた値引きであると判断されれば禁止の対象になる」という認識を示していました。

しかし、野党や小売業界の反発を受け、4月26日、麻生財務大臣は、
「納入業者への買い叩き等を防止する観点から、あくまで表示の仕方を規定するものであり、
企業努力による価格設定自体を制限するものではない」とした上で、
「税率の引上げ幅と一致する値下げ表示が行われるだけで禁止するというのは解釈として無理があり、
そうした規制を行うものではない」と、それまでの政府見解を修正しました。

5月8日、国会に提出された政府の統一見解は以下のとおりであり、法案成立を受け、今夏を目処に具体的な禁止例がガイドラインとして示される予定です。

禁止されるセール表示
・ 消費税は転嫁しません
・ 消費税率上昇分値引き
・ 消費税相当分のポイント付与

禁止されないセール表示
・ 春の生活応援セール
・ 3%値下げ(2014年4月の税率引上げ時)
・ 価格据え置き(広告表示なし)

2 中小事業者の保護

野党から「消費税という文言を含まないセールを規制できないザル法」と批判された特措法ですが、
その真の狙いは、小売業者が消費税還元セールのために仕入価格を不当に抑えることで、
中小零細の納入業者に税負担を押付けるのを防ぐことにあります。

これに対し、「不当な小売業者は現行法で取り締まればよい」という意見もあります。
確かに、独占禁止法により「優先的地位の濫用」を取り締まることは可能です。

しかし、前回(1997年)の消費増税時に実効性のある取り締まりが出来なかったため、今回の措置に至ったともいわれています。

特措法の重要なポイントは、中小事業者が消費増税分を価格に転嫁しやすいように、次のような規定が設けられていることにあります。

① 各省庁に価格転嫁拒否の実態を調査し、指導する権限を与える。
② 参加企業の3分の2以上が中小企業であることを条件に、消費増税分を一斉に価格転嫁するカルテルを認める。(独占禁止法の適用除外)

政府は、監視強化のため、公正取引委員会と中小企業庁で約600人を臨時採用することとしていますが、「経験がものをいう取り締まりは臨時職員では無理」という疑問の声もあります。
「2%の物価上昇目標達成のため、何としてでも価格転嫁させたいのが政府の本音」といった揶揄も聞かれるなか、特措法が中小事業者保護の実績を上げられるかが注目されます。

お見逃しなく!
公正取引委員会と中小企業庁は、消費増税を踏まえた価格交渉の実態調査を行うため、
2013年度中に15万社を対象とする書面調査を実施する方針です。

中小事業者のなかには、調査への協力で取引関係に影響が出ることを懸念する声もあり、
違反を指摘しやすい無記名回答も検討されています。

asg

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