国際税務ニュースレター 今回のテーマ:LPSの法人該当性
2014年3月号
今回のテーマ:LPSの法人該当性
-最終判断は最高裁へ持ち越し
OECDが開始したBEPSプロジェクトの行動計画では、二国間での取扱い(法人か組合か等)が異なることを利用して、
両国の課税を免れる取引(ハイブリッド・ミスマッチ取引)の効果を否認するモデル租税条約および
国内法の規定を策定することが掲げられています。
既に本行動計画を強く支持する旨を表明(平25.7.19財務大臣談話)しているわが国の税務訴訟においては、
二国間での取扱いが異なる事業体(LPS)の法人該当性を争点とした4つの高裁判決が出そろいました。
しかしその判断は真っ二つに分かれたため、最終決定は最高裁に委ねられました。
1 4つの事案の判決
4事案の判決を見ると、地裁では2件(東京地裁および名古屋地裁)が法人該当性あり、
2件(東京地裁および大阪地裁)が法人該当性なしと判断しました。
これに対し高裁では、名古屋高裁を除き、3事案において法人に該当するという判決がでています。
2 バミューダLPS事案
英国領バミューダ諸島(以下「バミューダ」)のリミテッド・パートナーシップ(以下「LPS」)が
日本の租税法上の法人に該当するか否かが争われていた事案について、2月5日に東京高裁の判決が出ました。
東京高裁は原審を支持し、法人には該当しないと判断しました(納税者勝訴)。
(1) 事案の概要
バミューダの法律に基づき組成された特例リミテッド・パートナーシップである原告が、
日本国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金について、法人税の申告書を提出しなかったとして、
法人税についての決定処分(税額約8億円)および無申告加算税の賦課決定処分を受けたことに対し、
原告は法人税法上の納税義務者には該当せず、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金を受領した事実はないとして、
本件決定および本件賦課決定に係る納税義務が存在しないことの確認および取り消しを求めた事案です。
(2) バミューダLPSの定義
バミューダ法上、LPSとは出資者であるとともに業務執行者であり、無限責任を負うジェネラル・パートナーおよび
出資者であるが業務執行に関与せず、出資金を限界とする有限責任を負うリミテッド・パートナーの間のリミテッド
・パートナーシップ契約に基づき組成される事業体と規定されています。
(3) 国(被告)の主張
外国の事業体が日本の租税法上の法人に該当するか否かは、当該事業体の設立準拠法の内容のみならず、
実際の活動実態、財産や権利義務の帰属状況等を考慮したうえ、個別具体的に、日本の法人に認められる
権利能力と同等の能力を有するか否かに基づいて判断すべきとし、その結果、当該LPSは法人に該当すると主張しています。
上記の具体的な判断基準として、以下①から③を挙げています。
① その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するが否か
② その名において契約を締結し、その名において権利を取得し義務を負うなど独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か
③ その権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得るか否か
(4) 納税者(原告)の主張
以下の判断基準に基づき、日本の租税法上の外国法人には該当しないと主張しています。
根拠法であるバミューダ法上、特例LPSに法人格を付与する旨の明文の規定は存在しないため、下記①には該当しません。
また、特例LPSを通じた事業の損益は、バミューダ法および本件LPS契約上、各パートナーに帰属することとされているため、
②にも該当しないこととなります。
① その準拠法である外国の法令によって法人格を付与する旨を規定されていると認められること
(法人格要件)
② 当該事業体を当該外国法令が規定するその設立、組織、運営および管理等の内容に着目して
経済的、実質的に見れば、明らかに日本の法人と同様に損益の帰属すべき主体
(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものであること(損益帰属要件)
(5) 東京高裁の判断
日本の租税法上の法人は、法律により損益の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)
として設立が認められたものであることから、外国法人についても形式的に上記⑷①に該当するものと解すべきとしたうえで、
⑷②が肯定される場合に限り、日本の租税法上の法人に該当すると結論付けています。
なお、被告の判断基準(上記⑶①から③)は、任意組合、法人格のない社団等、匿名組合、問屋等の法人税の課税主体となる
他の事業体にも該当するため、法人であるための必要条件であっても十分条件ではないと否定しています。
お見逃しなく!
日本の投資事業有限責任組合(LPS)に法律上の法人格はありませんが、組合員の共同保有財産により
共同事業を行うことを目的とした事業体であるため、各組合員がそれぞれ組合契約事業を直接行っていると
法文上は読めてしまいます(措法41の21①)。
したがって、外国法人または非居住者が日本のLPSの組合員になった場合には、同条の特例を受けない限り、
そのLPSの無限責任組合員の国内拠点が各組合員の日本における恒久的施設(PE)とされるおそれがあります。